日本の馬事情

弥生時代のものと見られる、鞍を装着した馬の埴輪が出土されている事実が証明するように、我が国における馬と人との歴史は非常に古くまで遡ることができる。古来より、馬はその機動力を活かした軍事的利用が主だったが、馬車の伝来とともに輸送手段の主力となり、自動車文明が発達するまでは、日本人と馬は密接な関係にあった。

 日本では「乗馬」と「競馬」は区別されているが、世界に目を向けると、字の如く「乗馬」は「馬に乗る行為」すべてを指し、「競馬」も「乗馬」からの派生であると位置付けられている。戦後、西洋式の「競馬」が日本の経済復興・高度成長に大きく貢献したことで「競馬」の認知度が先行し、同時に「乗馬」は、「富裕層のスポーツ」「観光地における体験」といった理解が一般的であり、認知度は低いものと言える。

 現代日本における「乗馬」は、大きく分けると
(1) 馬術が代表するスポーツ乗馬

(2) 野山を自由に乗るトレッキングなどの観光乗馬

(3) ホースセラピーやヒーリング乗馬などの障害者乗馬

の3つに分類される。昨今の自然回帰志向の高まりにより、動物と一心同体となって運動・競技にあたる「乗馬」は、老若男女を問わず、誰でも行う事が出来るスポーツ・趣味として近年、脚光を浴び始めている。

 「馬術」は、オリンピック種目に認定されているように、世界的に普及している乗馬スポーツである。欧州諸国においては、日本におけるプロ野球をも凌ぐほどに人気が高く、ヨーロッパ各地で競技大会が興行されており、日系企業の多くもスポンサーとして関係を築いている。先日、ロンドンオリンピック馬術競技の日本代表として出場権利を獲得した、法華津 寛氏は、71歳という日本選手最高齢の記録を樹立し、「オジンの星」を自称し、乗馬・馬術が老若男女を問わないスポーツであることを、身を以って証明している。高齢化社会に加速がかかる日本において今後、乗馬がさらに注目を集めることは間違いない。

 観光乗馬の代表格でもある「トレッキング」は、アメリカ大陸西部開拓に端を発する。馬にまたがり長距離を移動する姿は、日本人にとって西部劇を強くイメージさせるものであり、日本では、その扮装を真似て馬に跨り、野山の散策を楽しむことのできる施設などで、多くの乗馬ファンを魅了している。トレッキングは、スポーツ乗馬ほどの鍛練が必要なく、「馬術=スポーツ乗馬」をフォーマルとするなら、カジュアルに楽しめる乗馬であることは間違いない。